畑で、ひとりで ― 熱中症で本当に怖かったのは、我慢強さでした


夕方になっても、その人は畑から帰ってこなかった。

心配した家族が探しに行くと、畑で倒れていました。私たちはすぐに救急搬送しましたが、助けることはできませんでした。ひとりで農作業をしていて、熱中症になったのです。

私は救急救命士として、これまで多くの熱中症の現場に向かってきました。屋外で作業していて意識が朦朧となった高齢の方。運動の最中に倒れ、私たちが病院へ運んだ学生さん——受け答えはできるけれど、声に力がなく、ぐったりしている。ひとくちに熱中症といっても、その重さには大きな幅があります。そして、その容体は、驚くほど速く変わります。

今日は、現場で見てきたことをもとに、この「暑さ」という災害について書かせてください。

熱中症は、もう“災害級”です

「熱中症くらいで大げさな」と思われるかもしれません。でも、数字を見てください。

厚生労働省の統計では、熱中症で亡くなる方は近年増え続け、2024年は過去最多の水準となりました。救急搬送は、2024年の夏(5〜9月)だけで約9万8千人。これは過去最高です。

そして、亡くなる方の8割以上が65歳以上の高齢者。発生場所でいちばん多いのは、屋外ではなく住居の中です。「暑い日に外で無理をした若い人」ではなく、「家の中にいた高齢の方」が、いちばん亡くなっている。これが現実です。

地震や水害と同じ意味での「災害」には、法律上まだ含まれていません。けれど、これだけの命が毎年失われている以上、私は“災害級の脅威”として向き合うべきだと考えています。

変わったこと ―― 学生は、守られるようになった

一方で、希望も感じています。

かつては、部活動や運動の最中に重い熱中症になる学生が少なくありませんでした。でも近年、現場で運ぶ学生さんは、指導者の方が早めに休息をとらせ、重篤になる前に病院へつなぐケースが増えています。「おかしい」と気づいた大人が、早い段階で動く。それだけで、救われる命があります。

つまり熱中症は、周りが気づいて早く動けば、防げるし助けられる。学生の現場は、それを教えてくれています。

変わらないこと ―― 我慢強さが、仇になる

問題は、その“周りの目”が届きにくい人たちです。

高齢の方の場合、通報を受けて私たちが駆けつけた時には、すでに重症化していることが多いと感じます。理由のひとつは、我慢強さです。長く生きてこられた方ほど「これくらい大丈夫」と踏ん張ってしまう。その我慢強さが、熱中症では仇になる。

そして、これは高齢者だけの話ではありません。老若男女を問わず、私が現場で感じるのは、二つの心理です。

ひとつは「自分は大丈夫」という過信。もうひとつは「周りに迷惑をかけたくない」という遠慮。この二つが、「まだ大丈夫」「もう少しだけ」と、行動を遅らせる。畑でひとり倒れた方も、きっと、最後まで誰かに頼ることをためらったのかもしれません。

だから、“気にかけ合う関係”が命を守る

ここが、いちばん伝えたいことです。

熱中症の対策というと、「水分をとりましょう」「エアコンをつけましょう」という個人の努力の話になりがちです。もちろん大切です。でも、いちばん危ない人ほど、その努力を自分では緩めてしまう。我慢し、過信し、遠慮するからです。

だとしたら、頼るべきは個人の頑張りではありません。周りが気にかけ、声をかけ、様子を見に行く関係性です。学生を救ったのは、本人の根性ではなく、気づいた指導者の目でした。次は、ひとりで頑張る高齢の方に、その目を向ける番です。

「今日は暑いから、無理しないで」の一言。「あの人、夕方になっても帰ってこないな」という気づき。エアコンをつけているか、電話で確かめる。——大げさなことは要りません。お互いを気にかけられる環境をつくること。それが、どんな応急処置よりも前に、命を守ります。

(これは私が防災で考え続けている「受援力」——助けを受け止める力——と、根っこは同じです。危機のとき、人は“個人の頑張り”だけでは守りきれない。支え合う仕組みと関係があってこそ、命は守られるのだと思います。)

いざという時のために ―― 知っておいてほしいこと

最後に、実用的なことを。ここは正確さが命なので、公式の最新情報に沿ってまとめます。

【① 予防(今日から)】

  • のどが渇く前に、こまめな水分と塩分を
  • エアコンを我慢しない(「もったいない」で命を落とさないで)
  • 「暑さ指数(WBGT)」を目安に。テレビやアプリで確認できます
  • そして、周りの人に声をかける

【② 応急処置(2024年の最新ガイドラインに沿って)】

熱中症が疑われたら——

  1. 涼しい場所へ移す(日陰・室内・エアコンの効いた場所)
  2. 衣服をゆるめ、体を楽にする
  3. 体を冷やす。首・脇の下・太ももの付け根に、氷や冷えたペットボトル、濡れタオルを当てる(太い血管を冷やすと効率的)
  4. 自分で飲めるなら、水分と塩分を
  5. ⚠️ 呼びかけへの反応が鈍い・自分で水が飲めない・意識がおかしい時は、無理に飲ませない(気管に入る危険)。ためらわず119番。待つ間も体を冷やし続けて

判断の決め手は「意識の状態」です。迷ったら、待たずに呼んでください。

【③ 新しい制度を使う】

  • 熱中症警戒アラート:危険な暑さ(暑さ指数33以上)の予測で発表。外出・運動を控える合図
  • 熱中症特別警戒アラート:過去に例のない広域的な危険な暑さ(都道府県内すべての地点で暑さ指数35以上)の予測。前日午後に発表
  • クーリングシェルター(指定暑熱避難施設):市区町村が指定する涼める場所。特別警戒時は開放。地域のどこが指定されているか調べておくと安心

暑さは、これからますます厳しくなります。

熱中症は、正しく知れば防げる災害です。そして、いちばん危ない人ほど、自分では「大丈夫」と言ってしまう。だからこそ——あなたの「大丈夫」を、周りが少しだけ疑ってあげてほしい。そして、あなたも、誰かの「大丈夫」を気にかけてあげてほしいのです。

それが、市民の安全と安心のために、私がいちばん伝えたいことです。