レベル1は、安全宣言じゃない ― 御嶽山噴火から12年、登山者に伝えたいこと


12年前の9月27日、お昼前のことでした。

紅葉が始まった土曜日の御嶽山。山頂付近には、昼ごはんを広げる人、写真を撮る人、たくさんの登山者がいました。午前11時52分、山頂の南西で噴火が起き、大きな噴石が1キロほどの範囲に飛び散りました。

死者58名、行方不明者5名。戦後、日本で最悪の火山災害です。亡くなられた方々に、あらためて哀悼の意を表します。

登山シーズンのいま、前半では御嶽山で何が起きたのかを、後半では火山に限らずすべての山に登る人に向けて、消防の立場から伝えたいことを書きます。

第1部 御嶽山で、何が起きたか

「平常」だった山で

あの日、御嶽山の噴火警戒レベルは「1」でした。当時、レベル1の名前は「平常」。多くの登山者は、いつもどおりの安全な山だと思って登っていたはずです。

噴火は「水蒸気噴火」と呼ばれるタイプでした。マグマそのものが上がってくるのではなく、地下の水が熱せられて一気に噴き出すもので、直前に予知することがとても難しい。噴火の10分ほど前から小さな地震が増えていたものの、警報を出すまでには至りませんでした。

名前が変わった理由

噴火の翌年、2015年に、噴火警戒レベル1の名前は「平常」から「活火山であることに留意」に変わりました。

この名前の変更そのものが、御嶽山の一番の教訓だと私は思っています。レベル1は「安全です」という意味ではありません。「ここは生きている火山です。そのつもりで登ってください」という意味です。

同じ年には法律も変わり、活火山に登る人には、自分で火山の情報を集めること、連絡手段を確保することが求められるようになりました(努力義務)。2023年の改正では、登山届を出すことの努力義務も強められ、8月26日は「火山防災の日」になりました。

救助は、困難をきわめた

噴火のあとの救助も、厳しいものでした。

山頂付近にはヘリコプターが降りられる場所がなく、火山灰も積もっていたため、ヘリは着陸せずに人をつり上げて救助しました。有毒な火山ガスが基準を超えれば、救助隊はすぐに撤退しなければならない。台風が近づけば、活動そのものを止めるしかない。標高3,000メートルには重機も入れず、作業は人の手とヘリだけ。のべ1万5千人以上が投入されましたが、捜索は途切れ途切れにしか進みませんでした。救助にあたる隊員自身も、再び噴火するかもしれない、ガスに巻かれるかもしれないという危険の中で活動していました。

いまの御嶽山

いまの御嶽山では、多くの犠牲者が出た八丁ダルミの立入規制も解除され、シェルターが設置されています。ヘルメットをかぶること、危険な区間はすみやかに通り抜けることが呼びかけられています。火口の近くには、今も立ち入れない範囲があります。規制の内容は変わることがあるので、登る前に必ず最新の情報を確認してください。

第2部 すべての山に登る人へ

ここからは、火山に限らない話です。低い山でも、よく知っている山でも、山に登るすべての人に共通することを、消防の立場から書きます。

山では、救助に時間がかかる

山で動けなくなったとき、救助はすぐには届きません。

霧や強い風、雨、そして夜。条件によっては、ヘリコプターは飛べません。地上から向かう隊は、自分の足で登っていくしかなく、現場に着くまでに何時間もかかることがあります。通報してから助けが届くまでの間を持ちこたえるのは、自分自身です。

居場所がわからない人は、助けに行けない

そして、救助にかかる時間を大きく左右するのが、「どこにいるのか」がわかっているかどうかです。

助けを求める人の居場所がわからなければ、私たちはまず「探す」ところから始めることになります。捜索が長くなれば、救助される人が待つ時間はそれだけ延び、救助する側も危険な場所に長くとどまることになって、二次災害のリスクが高まります。

居場所がわかっていれば、救助はまっすぐそこへ向かえる。わからなければ、山じゅうを探すことになる。この差は、救助される人の命にも、救助する人の命にも関わります。

登山届とGPSは、「助けて」の準備

以前、防災の日の記事で、「助けを求める力」も大事な備えだと書きました。山では、それが登山届と、居場所を伝える手段です。

登山届。どの山に、どのルートで、何人で、いつまでに下りてくるのか。それを誰かに預けておくことは、「もし何かあったら、ここを探してください」という準備です。登山口のポストやオンラインなどで提出でき、山や地域によっては条例で提出が義務になっているところもあります。家族にも同じ内容を伝えておいてください。

GPS機能のあるスマートフォンと、モバイルバッテリー。スマホの位置情報は、あなたの居場所を救助隊に伝える大きな手がかりになります。ただ、電池が切れれば、それも使えません。寒さや写真の撮影で、バッテリーは思った以上に早く減ります。予備の電源は必ず持ってください。

自分の居場所を、誰かが知っている状態をつくっておく。それは、助けを受け止めるための備え、登山者の「受援力」です。

登る前に、これだけは

消防の仕事をしていると、山のけがや体調不良の通報で、「山に合った装備をしていれば」「計画があれば」と感じることが少なくありません。

すべての山で

  • 装備:短パンやサンダルではなく、足首を守る登山靴と、体を守る服装で
  • 水分:思っている以上に汗をかきます。十分な水を持っていく
  • 計画:日没までに下山できる計画を立てる。暗くなった山は、それだけで遭難の原因になります
  • 居場所:登山届を出す。GPS付きのスマホとモバイルバッテリーを持つ

火山に登るときは、さらに

  • 情報:噴火警戒レベルと立入規制を、気象庁や地元の自治体で確認する
  • ヘルメット:岩や噴石から頭を守れる硬いものを
  • シェルター:シェルターや山小屋の位置を、登る前に地図で確かめておく。噴火したら、岩陰などに身を隠し、ザックで頭を守る

おわりに

御嶽山は、今も多くの人が登る、信仰の山であり、美しい山です。火山だからこそ、あの景色がある。

御嶽山が教えてくれたのは、レベル1は安全宣言ではないということ。そして、すべての山が教えてくれるのは、救助には時間がかかり、居場所がわからなければ助けに行けないということです。

12年前の教訓を、どうか次の山行に持っていってください。それが、市民の安全と安心のために、私がいちばん伝えたいことです。

参考資料